私のために赤い飯を炊いて客をするという相談が父と母の間に起った

ブログのサンプル文章として版権切れの小説を表示しています。私は帰った当日から、あるいはこんな事になるだろうと思って、心のうちで暗にそれを恐れていた。私はすぐ断わった。

「あんまり仰山な事は止してください」

私は田舎の客が嫌いだった。飲んだり食ったりするのを、最後の目的としてやって来る彼らは、何か事があれば好いといった風の人ばかり揃っていた。私は子供の時から彼らの席に侍するのを心苦しく感じていた。まして自分のために彼らが来るとなると、私の苦痛はいっそう甚しいように想像された。しかし私は父や母の手前、あんな野鄙な人を集めて騒ぐのは止せともいいかねた。それで私はただあまり仰山だからとばかり主張した。

「仰山仰山とおいいだが、些とも仰山じゃないよ。生涯に二度とある事じゃないんだからね、お客ぐらいするのは当り前だよ。そう遠慮をお為でない」
母は私が大学を卒業したのを、ちょうど嫁でも貰ったと同じ程度に、重く見ているらしかった。

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