私は母を蔭へ呼んで父の病状を尋ねた

ブログのサンプル文章として版権切れの小説を表示しています。「お父さんはあんなに元気そうに庭へ出たり何かしているが、あれでいいんですか」

「もう何ともないようだよ。大方好くおなりなんだろう」

母は案外平気であった。都会から懸け隔たった森や田の中に住んでいる女の常として、母はこういう事に掛けてはまるで無知識であった。それにしてもこの前父が卒倒した時には、あれほど驚いて、あんなに心配したものを、と私は心のうちで独り異な感じを抱いた。

「でも医者はあの時到底むずかしいって宣告したじゃありませんか」

「だから人間の身体ほど不思議なものはないと思うんだよ。あれほどお医者が手重くいったものが、今までしゃんしゃんしているんだからね。お母さんも始めのうちは心配して、なるべく動かさないようにと思ってたんだがね。それ、あの気性だろう。養生はしなさるけれども、強情でねえ。自分が好いと思い込んだら、なかなか私のいう事なんか、聞きそうにもなさらないんだからね」

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